上大岡駅徒歩1分。日中のみ営業するコワーキングスペース「はこカフェ」が、静かに注目を集めている。2025年3月、坂巻修平さんがオープンしたこのスペースは、SNS(X)で何気なく投稿した「お客さんが来なくて心が折れそう」というポストにより149万インプレッションを集めるなど大きな話題となった。しかし先週、同じくSNSにて「物件の都合により」6月末での閉店が発表されたのだ。
わずか3ヶ月での閉店——これは単なる「失敗」だったのだろうか?本当にやりたかったことは何だったのだろうか?
以前から動向を伺っていた編集部はどうしても気になり、坂巻さんに連絡をとった。
「答えは決してそう単純ではありませんね」
坂巻さんが語る「これまで」と「これから」には、事業を立ち上げるすべての人が知っておくべき重要な示唆が詰まっている。SNSの光と影、リアルな集客の手応え、そして次への確かな足がかり。「事業を立ち上げようとするすべての人に読んでもらえたら」坂巻さんは言う。
——まず、カフェ開業前のご経歴を教えてください。
20歳頃から自動車ディーラーで整備士として3年ほど働いていました。その後、自動車関連のカーケア用品の開発・販売やマーケティングの仕事を経て、2年前からフリーランスとして動画編集やSNS運用代行、IT学習コンテンツ制作などをしています。
——「はこカフェ」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
フリーランスとして自宅で作業していると、どうしても集中できないことがあるんです。そこでカフェや喫茶店を利用していたのですが、自分のような働く場所を求めている人って他にもいるのではないかと感じていました。
そんな折に、居酒屋を経営している友人に話をしたところ「昼間の時間帯なら使っていいよ」といってもらったんですね。はじめは自分が作業さえできればよかったのですが、そこに人が集まれば新しいビジネスや交流ができると考え、コワーキングとして開放しようということになりました。気持ちを切り替えて働ける場所の必要性を、自分の経験から強く感じていたんです。
——オープンは3月1日でしたね。運営してみていかがでしたか?
正直に言うと、イメージ先行で始めてしまった部分があります。ターゲットの設定やKPIやKGIなどの詳細な設計が甘く、そこで苦労しました。逆に良かったのは、それでもお客さんが来てくれたことと、様々な人と話すことで多くの学びの機会が得られたことです。
ビジネスを始めてから人との繋がりがとても増えました。いろんな業種の方と交流できて、来店されたお客さんの顔と名前はほとんど覚えています。一人一人とのコミュニケーションを大切にしていましたね。
——SNSの活用が軸になったとお聞きしています。
はい、主にX(旧Twitter)を運営して周知をしていました。思いもしない投稿が突然バズったんですね。例の「心折れそう」ツイートを、著名なマーケターの方がリポストしてくださったのが拡散のきっかけになったと分析しています。バズが起きた最初は親身にアドバイスをくれる方などもいて、インプレッション数の多さに喜んだのですが、正直その後は精神的にどんどん疲弊していきました。この拡散には「届けたい人以外にも届く」という特性があり、自分の言葉が“想定していなかった別の文脈”で消費されていくことが恐怖に変わっていったと思います。
拡散されるにつれ、予期せぬ広がりや心ないコメントなどに苦慮して…。SNSの拡散性は武器でもあり、コントロール不能な領域でもあることを痛感しましたね。自分のこころを守る必要を感じ、一時的にコメントは見るのをやめました。
もし同じことで苦しんでいる方がいたら、まず遮断することも大切だと伝えたいですし、自分自身、再び同様のことが起きても、正直対処は難しいと思います。自然に収束するのを待つしかないのかもしれませんね。プラスだったかというと、結果的にはマイナスの側面が大きいなと。
ただ、これをきっかけにSNSを通じて遠方から来てくださるお客さんがいらっしゃったり、素敵な縁が生まれたのも確かですが。
——6月末での閉店が決まった経緯を教えてください。
「はこカフェ」はスペースの提供状況に変化があったことから、6月末をもって営業を終了する運びとなりました。とはいえ閉店理由として自分なりに分析すると、やはり詳細な設計の甘さがありました。どのような層にどのような価値を提供できるのかという自分なりの言語化が不足していたんです。
ただ、まだ3ヶ月しか経っていませんし、ようやく土台ができてきている手応えもありつつ、これからという段階での閉店なので、もう少し続けられれば違った結果もあったかもしれません。
——3ヶ月という短期間での振り返りはいかがですか?
人と話すことや人が集まる空間が好きだということを再認識できました。カフェ運営を通じて得られた繋がりや学びは、次のステップに確実に活かしていけると思っています。
その辺りの想いやリアルな実態はnoteで公開していますので、もしよかったらみていただけたらと思います。
——閉店後はどのような活動を予定されていますか?
現在運営しているLINEコミュニティを継続しつつ、新たにnoteでメンバーシップを月内に公開する予定です。カフェがなくなっても繋がりを維持し、将来的にはもう一度リアルなスペースをじっくりと作りたいと考えているので、今はオンラインでのコミュニティ作りを重視していきたいですね。
——LINEコミュニティはどのような運営をされているのですか?
自由な場であることを重視していますが、過去に参加者同士での議論が過熱した反省から、現在は週に一度、日常の気づきや疑問を問いかけて、参加者の方が考えるきっかけを提供するような運用をしています。参加資格は特になく、相手を思いやりながら参加できる方なら歓迎です。
また、以前から続けているnoteのメンバーシップでは、今後の活動方針やLINEでの問いかけに対する自分の考えなどを共有し、より深い繋がりを作っていきたいと考えています。
——坂巻さんにとって「はこ」とは?
人との繋がりや「場」=「はこ」をリアルに作ることはもう僕にとってはライフワークなのかもしれません(笑)。オンラインコミュニティを通じて、次のリアルな場作りに向けた準備を進めていきたいと思います。今回の閉店は避けられないものでしたが、ここで得た経験と繋がりを次に活かしていきます。コミュニティメンバーの方々と一緒に、新しい形の「働く場所」を考えていければと思っています。
インタビューに答えていただいたのは…
コワーキングカフェ|はこカフェ 代表 坂巻修平(さかまき しゅうへい))さん
自動車ディーラーでの整備士経験を経て、カーケア用品の開発・販売、マーケティング業務に従事。2年前からフリーランスとして動画編集、SNS運用代行、IT学習コンテンツ制作を手がける。2025年3月、コワーキングカフェ「はこカフェ」を開業。現在はLINEコミュニティとnoteメンバーシップを通じたオンラインコミュニティ運営に注力している。
X:https://x.com/shuhei_startup
note:https://note.com/shuhei_start
LINEコミュニティへの参加はこちら
坂巻さんの話を聞いて印象的だったのは、3ヶ月という短期間での閉店を「失敗」として捉えるのではなく、次への学びと捉えている姿勢でした。オンラインコミュニティという形で繋がりを継続し、将来的なリアル展開を見据える戦略は、現代の起業家にとって参考になる事例と言えるでしょう。坂巻さんの次なる挑戦に注目したいと思います。